いつ見ても、赤堀さんの舞台はヒリヒリする。
見ていていたたまれなくなる。
エンディングのシーンがなければこのままの閉塞状況で
舞台が終わってしまうのかとさへ思った。
葡萄をモチーフに赤堀さんはエロチックな倒錯の世界を描く。
そういう意味では庶民的な谷崎潤一郎とでも言えるのかもしれない。
今回、女優の池谷のぶえが新境地を見せてくれた。
抑えた演技の中にある厚い想い。
抑えた演技の中から少しだけ見えてくる狂気。
淡々とした演出の中から奇妙なものが少しずつ見えてくる。
スズナリという舞台空間だからこそ出来たことなのかもしれない。
もっと広い劇場で行われていたとしたら
その試みは効果的だったのだろうか?
などと思った。
そういう意味ではTHE SHAMPOO HATとスズナリは相性がいい。
(以下、ネタバレ含みます。)
舞台は田舎町の一軒家。その居間が舞台の真ん中にある。
奥には草木が生い茂った庭があり一本のひまわりが咲いている。
その手前に居間と庭をつなぐ縁側がある。
i居間の上手には二階へと続く階段が見える。
庭に立つ警官。
縁側に立って警官に応対する、この家にお手伝いに来ている池谷のぶえ。
そして舞台手前を向いて、パンを牛乳につけながら食べている男(野中隆光)。
コンビニで拳銃強盗があったらしく、犯人は金五万円を奪って逃走している。
そこにこの警官が聞き込みにやってきたという状況から舞台は始まる。
このパンを食っている男が犯人であることは暫くしてわかる。
この男は、この村出身者で、この日、刑務所から
15年間のお勤めを果たして出所してきたところだという。
この家はその男の友人の家であり、昔、男は友人の妻と付き合っていた。
妻が身ごもった子供はこの家の長男である男の子。
彼は15歳。現在、部屋に引きこもり、もう3日も部屋から出てきていない。
ご飯も食べない。担任の先生が心配して来ている。
男の子の部屋は二階である。
その二階の部屋の隣では、東京から取材に来ている男が、
地元の女(いせゆみこ)とセックスをしようと奮闘努力している。
彼女は男とセックスをすることによって報酬を得ている。
男は精神的なものなのかペニスが上手く勃起しないみたいで、
女も帰るに帰れない、という状況である。
この家の妻は、そのような状況にいらだっている。(那須佐代子:青年座)
ここの主人(日比大介)と犯人である男(野中隆光)の関係性が面白い。
日比は野中を拒絶しない。
何故なのか、この二人には何かあったのか?
15年前、彼らは一緒に店に居て、店の中で喧嘩となり、
日比は喧嘩相手の男を撲殺する。
そのときに彼らの中では決定的な何かがあったのか?
そういった謎が明らかにされないまま、
いたたまれないずるずるとした人間関係が続いていく。
それを僕たちはじーっと見ているのである。
最後に、救いのない状態を少しだけ変えてくれる。
それでそうなるというわけではなく。
THE SAMPOO HATは、
いつもオンリーワンな舞台を提示し続けてくれる劇団のひとつだと思う。
終演後、Sさんと話していて、
THE SHAMPOO HATはいつも通奏低音のように効果音が聞こえてくるという。
今回の舞台も音楽などはまったく使われていないのだが、
夏の田舎の夜の音(田んぼのカエルや、庭の草むらで虫が鳴いている)が
ずーっと鳴り続けているのである。
池谷はこの音を舞台上で、「ああ!ウルサイっ!」と言った。
そのことについてSさんと下北沢まで語りながら帰った。