ポール・オースターの原作を舞台化したもの。
ポール・オースターは米国の現代作家である。
日本では東大の英米文学の教授、
柴田元幸が多くの著作を翻訳していることでも有名な作家である。
柴田元幸と言えば、村上春樹と並び称される米国現代文学の翻訳家である。
村上春樹との共著で「翻訳夜話」というような本も出ている。
英語を日本語に置き換える作業はどれだけ難しいことだろうと思う。
意味だけを伝えるように翻訳することなら出来るかもしれないが、
それを読みやすく素敵な日本語に置き換える作業は
本当に大変な努力と情熱が必要なことだろう。
今回の舞台は、新潮社から出た、柴田元幸の翻訳をベースに
演出家でもある白井晃が構成し台本化しているそうである。
この舞台は、同じ世田谷パブリックシアターで3年前に
上演されたものの再演だそうである。主演は仲村トオル。背が高い。
そして横幅もありがっしりとした印象がある。なぜか、堤真一と重なった。
彼のファンの方が多いのだろうか?舞台は女性が多く見受けられた。
劇場は三階席まで一杯だった。
演出が面白い。
仲村トオルの独白でこの舞台は進行していく。
ミニマルなチェスかオセロ盤のようなセットの上に
小道具やミニチュアのみが配置されて様々な場所を作っていく。
移動するときの感覚は俳優たちが前後左右に行きかうことによって
表していた。
男はある日、父親の遺産が転がり込みそれを元手に
果てしの無い旅を続ける。赤いサーブ900に乗って。
サーブのミニチュア模型が舞台の下手に置かれる。
彼は旅の途中で若い男(田中圭)と出会う。
彼はポーカーの名手?だった。
彼ら二人は旅を始める。
大きなお屋敷に到着する。
大きなお屋敷のミニチュア模型が舞台に置かれる。
そこに居る男たちと賭けポーカーに興じる。
高額のお金がかかった博打のシーンは
舞台でそれが虚構だとわかっていてもドキドキするものである。
ギャンブルの魅力とはそういったところにあるんじゃないのかな?と思った。
結局、仲村と田中の二人組みは全財産以外に1万ドルの借金をすることになり、
その返済の為に、このお屋敷の壁造りを延々とやる羽目になる。
古城を丸ごと購入したお屋敷にすむ彼らの古城の石を
壁として積んでいく作業に従事することになる。
果てしない作業。監視員との交流が始まる。
ある日、彼らは監視員に頼んで
娼婦を呼ぶことにする(初音映莉子)。
初音はコケティッシュで馬鹿っぽい娼婦の役を体当たりで演じる。
物語は淡々と続いていく。
田中は事故で死に、残された仲村は虚無感の中淡々と過ごしていく。
彼の誕生日が12月13日であるが、丁度その頃、壁作りの作業も終わる。
近所のBARで酒を飲む。監視員のおごりである。
メリークリスマス。
しかし、仲村の中には何ら達成感みたいなものはなく
虚無なものだけが舞台を支配する。
ポジティブで前向きなアメリカ!ビバ、アメリカ!
というものとは対極にあるもの。
それがこの静かな舞台を支配していた。
音響が良かった。井上正弘の手によるものである。