梅田望夫が「サバティカル」宣言をした。
と、ブログに書かれていたのは衝撃的だった。
「研究ための長期休暇」を取る。
そのために今後「私塾のすすめ」以降は当分、出版などは行われないと。
ええええ!とショックだった。
いつも梅田望夫の文章に触れるたびに勇気をもらい
未来について考える事ができた。
その文章が読めないなんて!と悲嘆にくれた。
唯一読んでいなかった梅田さんの本がこれだった。
アマゾンで調べて注文購入をする。
書店をさがしてもこの本は見つからなかった。
2006年に出た文庫版である。
2年弱も経つと店頭から姿を消すというのは仕方がないことなのだろう。
数日もするとアマゾンでやってくる。
シリコンバレーのネットバブル崩壊後以降のことを語ったのが本書である。
梅田さんが良くお書きになっているグーグルの萌芽の部分が本書に記されている。
ネット上にある様々なものをグラフ構造化して、
その構造を簡単に分析できるものを開発しようとした
二人の数学者の好きなことへの邁進がグーグルを産んだと書かれてある。
実際には難しすぎてわかないが、
そのグラフ構造であるという直感から
そのWEB(蜘蛛の巣)の張り巡らされた全てのものを
解析しようという発想を信じて突き進んで来たということ自体に驚きを感じる。
そのときは誰もその構造解析のシステムから
あのような優れた検索エンジンが開発されるなんて予想もしていなかったことだし、
その検索に連動した広告で利益を得るという仕組みを考えるに至った経緯は
さらにすごいものを感じる。
梅田は言う。
若いものたちが何か始めたらそれを大人たちは喜んで眺めているだけでいい。
彼らの努力が実るか大きくなるかなんてわからない。
そのわからないものを、わからないまま放置出来、
わからないことを純粋に応援できるのがシリコンバレーの精神なんだろうなあと思う。
シリコンバレーはサンフランシスコの東に位置する。
サンノゼというところが中心地などと言われるが
どこからどこまでがシリコンバレーかという定義はないそうである。
しかし、あの風光明媚で自然が豊かなのんびりとした街で、
ものすごく新しい事が起きている。不思議な感覚である。
梅田は1994年にこの地にやって来た。
そして、1997年にミューズ・アソシエイツを創業する。
本書自体は、その頃に、
新潮社の月刊誌「フォーサイト」に
「シリコンバレーからの手紙」というタイトルで連載されたものがベースとなっている。
単行本自体は2001年に発行されている。
そして2006年に文庫版が出版される。
文庫版のために梅田が新たに書き下ろした、
前書きと、文庫版のための長いあとがきを読むと
2006年に梅田さんが考えていらしたことが良くわかる。
メディア状況が変化しようとしている今、
本書には面白くかつ教訓的なことがたくさん書かれている。
その中でも本書で特に興味を持ったのが
「マドル・スルー」という状態を表す言葉である。
英語で書くと「Muddle through」となる。
文字通り「泥の中を進む」=「先行きが見えない中。
手探りで困難に立ち向かう」という意味だそうである。
今の広告業界もまさにこの状態にあると言えよう。
そしてこの状態をプロセスとして楽しむ文化が
アングロサクソンにはあると中西輝政京大教授は語る。
未来を創造する為にこの状態を積極的に楽しんで
試行錯誤していくことが、今の我々に求められていることの一つかも知れないな?
と本書は教えてくれる。