田中麗奈が舞台初挑戦で話題の公演。
ONEOR8の田村さんの脚本・演出なので安心出来る。
そういえば、彼女のCMデビュー作は、「なっちゃん」だった。
舞台女優を目指す少女の役だったことを思い出す。
デビュー映画「がんばっていきまっしょい」は鮮烈だった。
やる気のない地方都市の女子ボート部の高校生を演じた。
そのままの懸命さが新人賞につながったのだろうか?
あれからもう10年以上の年月が流れ、田中麗奈も28歳になった。
最初、彼女は、劇映画しか出ないという印象があった。
映画とCMの人。
みんな、「なっちゃん」と言っていた時期もあった。
映画のセレクションが玄人好みで息の長い女優にしていこうと言う
思いが感じられた。
行定勲監督の「きょうの、できごと」の関西弁を話す田中麗奈が印象に残っている。
また、故市川準監督のCM「味の素・ほんだし」のときに新妻を演じた。
それもまた鮮烈だった。
そして、今回初舞台である。しかも原作が向田邦子!
向田邦子の世界を田中麗奈が演じる。
ああ、あるな、あるなと思った。
久世光彦さんが生きていらしたら彼女をドラマで起用してくれただろうか?
岸本加代子のような役が彼女なら出来るかもしれないなあと思った。
この舞台は、結婚した妻の役。
葬式のシーンから舞台は始まる。
過去に、
お母さんだった田中麗奈(英子)が誤って、
自分の息子の指を包丁で切り落としてしまう、
というエピソードが物語りを貫いている。
指が元にもどらずに人差し指のない小学生は、大きくなる。
その少年が小さかった二十年くらい前と、
二十年後のお葬式の日が交錯しながら語られる。
田村の技法はとっても演劇的である。
同じ舞台の部屋が、いかようにも変容する。
田中麗奈の実家になったり、主人とその家族の住む家になったり、
お金持ちのおじさん夫婦の住む家になったり、
そのお金持ちのおじさんが囲っている二号さんの家になったりする。
変容の仕方が上手いので混乱することはない。
脇を固める、根岸季衣や八十田勇一、阿知波悟美、山口良一などがいい。
昭和を演じるというのは
28歳の田中麗奈にとっては大変なことだったのだろう。
しかしながら彼女の立ち姿やスタイルから来るそれは十分に魅力的であった。
では、さらに良く出来たポイントは何だったのだろう?と考えた。
田村は短編集である「思い出トランプ」を読み込んで、
1本の舞台に上手く再構成していた。
演劇的な感動とは、
何かひとつの強いシーンにあるのかも知れないと思った。
根岸に嫌味を言われた田中が号泣するシーンがある。
あのシーンを再構成することで一つの舞台の核がもっと強烈に
浮かび上がってくるのではないかと思った。
素晴らしい力作ではある。
今度、是非「あ・うん」などにこのスタッフで
是非トライして欲しいと思った。