今回、青年座では、マキノノゾミ脚本の三作品を
一挙連続上演しようという試みを行っている。
マキノは明治時代の人々を描く。
その時代の人間の持っていた矜持みたいなものを描く。
ある清清しい感覚とでも言えばいいのだろうか?
武士の志みたいなものと道徳観が現れてくる。
儒教的道徳観や倫理観の強い時代だったからこその日本人とは?
そんなことを考えさせられる。
タイトルにあるようにこの舞台の主人公は「赤シャツ」である。
そう、夏目漱石の坊ちゃんに出てくる教頭先生である。
夏目漱石の小説の中で唯一明るい小説である「坊ちゃん」の中の
「赤シャツ」先生とは?と
マキノノゾミが想像力を凝らして考えた結果がここにある。
当時の中学校の教頭とは大変な名士であったと想像される。
また「赤シャツ」先生は、文学士でもあり、松山の富裕層であり
知識層の一群をなしていたと想像される。
しかしながら、その「赤シャツ」にインテリ知識層の弱さが突きつけられる。
赤シャツは、徴兵されないように自らの戸籍を北海道に移した。
他のものたちは日清戦争や日露戦争に出征しているのに、
赤シャツは徴兵されないまま、松山の地で過ごしている。
その事実を腹違いの弟(妾腹と言っていた。)が知り、
尊敬していた兄を糾弾するようになる。
当時の日本ではこれは卑怯なもののやることであると。
そして「赤シャツ」は自分の弱さと卑怯さで自らを追い込んでいくこととなる。
マドンナは赤シャツのことが好きだと言うし、
芸者の小鈴も赤シャツの贔屓である。
色っぽい話が並行してありつつも日露戦争などの影が底流に隠されている。
小鈴が料亭の宴席に出るときに、日露戦争に出兵した兄の訃報を聞く。
旅順で亡くなった。その日の宴席はロシアの軍人の宴席。
小鈴は仕事といえ、今日はどうしてもいやだと泣く。
戦争の悲惨さが胸に応えるシーンである。
その後、ロシア兵が小鈴のところにやってくる。
ロシア兵の家族も、旅順での闘いで命を落としたという。
小鈴さんが今日の宴席に出たくない気持ちは良くわかります。
ご冥福をお祈りいたします。と十字を切る。
誰も戦争に行きたくないものたちが闘ってお互いに命を落とす。
敵も見方も関係なく。殺しあうという事実だけがそこにある。
国益を守るためだけに人の命を軽視していいわけがない。
庶民のそういったささやかなエピソードから、
大きなテーマを紡いでいくのにマキノノゾミくらい
ふさわしい劇作家は多くはいないのではないだろうか?
井上ひさしを継ぐものとして
これからも矜持を持って劇作活動をしていただきたい。
そして微力ながら、その表現を見続けることによって応援していきたいと、
自らの襟を正した夜だった。
演出:宮田慶子。
赤シャツ:横堀悦夫。