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代休の水曜日。朝11時から6時間の通し上演。
2013年F/T13の時にこの「あうるすぽっと」で見ていたことを思い出す。
ロビーには2006年からの10年以上にわたる木ノ下歌舞伎の公演の記録が
チラシとともに展示されていた。
2013年と個人的に一番大きな印象の違いは第三幕の「夢の場」。
七夕の夜に伊右衛門が鷹を探して山奥に迷い込みそこにある一軒の家で女が糸車を回しているという設定。
生き残るために仕方がなかったのが、それとももともともっていた「業」なのか
伊右衛門は極悪非道の限りを尽くし生きていく。
女房のお岩を捨て金目当てに別の女と結婚し、邪魔だと思うやつは容赦なく切り捨てていく。
戸板に乗った殺されたお岩さんと小平のシーンなどは歌舞伎でも見せ場として有名である。
その外連味(けれんみ)は外連味として活かしつつも、
木ノ下歌舞伎ではそれ以上に物語の根底に流れているものを救い出そうとする。
そのためにはこうした形で通し上演をしないと見えてこないものがある。
戯作者の鶴屋南北がここで何を描きたかったのか?ということがわかる。
極悪非道の限りを尽くしていても三分の魂が人にある。
母親から生まれて無償の愛情に育まれ大きくなっていくのは人の常。
第三幕の「夢の場」はまさにその伊右衛門が魂の救済を求める場なのである。
いままで行ってしまった極悪非道は元には戻せないがその罪の意識が魂の救済を求める。
その心の中がこのシーンに表れている。
現世は決して平穏ではない。そういう世の中だからこそ鎮められた魂とともに
平穏な世界を求めたいというメッセージがここにある。
鶴屋南北の願いとも思えるそれが戯作となって描かれた。
当時の人たちはこの通し上演を見てどのようなことを思ったのか?
芸術作品によって心が救済されることは多い。私もその一人である。
「赦し」の思想が本作品の根底に流れているのではないだろうか?
立川談志師匠が落語は「業の肯定」であるといつもおっしゃっていたという話は有名だが
まさに「業を受け容れて赦す」ことが本作の第三幕では描かれている。
そして、この通し上演ではかたき討ちをはじめとした復讐の連鎖が同時に描かれる。
復讐の連鎖は決して終わらない。
戦争は続きテロは続いている。
本当の「赦し」はどのように行われるべきなのか?
そのための強い願いが鶴屋南北にはあったのでは?という解釈を
補綴の木ノ下裕一が行い、それをものすごい熱量で杉原邦生が演出したのでは?
木ノ下と杉原のコンビはこれで最後になるらしい。
杉原さんの卒業への木ノ下さんの言葉が折り込みに書かれており胸を打つ。
お袖役の女優さん、土居志央梨が魅力的だった。